遺留分の計算方法

今回は、遺留分となる財産価額の計算方法について解説します。

遺留分の計算方法

では、各相続人の遺留分の計算方法について、遺留分のみなし相続財産額算定で使った具体例を用いて説明しましょう。
具体例の内容については、補足をつけて下記の通りです。

  • 被相続人には、長男と次男の二人の相続人がいます。
  • 被相続人の死亡時の財産は、不動産4,000万円と預貯金1,500万円で遺産額合計5,500万円です。
  • 長男は1,000万円の特別受益に当たる贈与を受けています。

この内容をベースに3つのパターンで遺留分を計算してみます。

(1)「次男に全ての財産を相続させる」場合

具体例の内容に加えて、被相続人が「次男に全ての財産を相続させる」旨の遺言書を適正に作成していた場合、遺言書による相続を受けることができなかった長男が遺留分を請求する際の遺留分侵害額について考えます。

長男は被相続人の生前に特別受益に当たる贈与を受けていますが、これが相続開始前の10年間の内に贈与されたものである場合、長男の遺留分侵害額は以下の通りです。

  • みなし相続財産額=遺産額5,500万円+特別受益1,000万円=6,500万円
  • 遺留分割合=みなし相続財産額6,500万円×遺留分1/4=1,625万円
  • 遺留分侵害額=遺留分割合1,625万円-長男自身が受けた特別受益1,000万円=625万円

次に、長男が受けた特別受益が相続開始の10年よりも前に贈与されたものである場合、長男の遺留分侵害額は以下のようになります。

  • みなし相続財産額=遺産額5,500万円=5,500万円
  • 遺留分割合=みなし相続財産額5,500万円×遺留分1/4=1,375万円
  • 遺留分侵害額=遺留分割合1,375万円-長男自身が受けた特別受益1,000万円=375万円

以上のように、特別受益による贈与が相続開始の10年よりも前か後かによって、「みなし相続財産額」(遺留分を算定する際の基礎となる財産の価額)に特別受益分を加算するか、加算しないかに分かれます。
しかし、遺留分侵害額請求者が、その特別受益を受けた者である場合は、特別受益による贈与が相続開始の10年より前であっても、時間的な制約を受けずに控除(差し引く)しなければならないということに注意が必要です。

この点について、誤った認識をしている専門家も多いようですが、重要なポイントになりますので、ご注意ください。
このような計算方法の根拠は、民法の1046条第2項1号の規定です。
遺留分侵害額の算定において、遺留分請求権者が受けた特別受益は遺留分侵害額から控除されるというものですが、この条文には時間的な制約は定められていません。

(2)「長男に全ての財産を相続させる」場合

次に、「長男に全ての財産を相続させる」旨の遺言書が残されていた場合で考えてみましょう。
この場合、遺留分侵害額請求者は次男となります。

まず、この場合において次男が遺留分を請求する際の遺留分侵害額を計算します。

長男の特別受益に当たる贈与が相続開始前の10年間の内に贈与されたものである場合、次男の遺留分侵害額は以下の通りです。

  • みなし相続財産額=遺産額5,500万円+特別受益1,000万円=6,500万円
  • 遺留分割合=みなし相続財産額6,500万円×遺留分1/4=1,625万円
  • 遺留分侵害額=遺留分割合1,625万円

次男には特別受益がありませんから、遺留分割合がそのまま遺留分侵害額となります。

次に、長男の特別受益に当たる贈与が相続開始前の10年よりも前に贈与されたものである場合、次男の遺留分侵害額は以下の通りです。

  • みなし相続財産額=遺産額5,500万円
  • 遺留分割合=みなし相続財産額5,500万円×遺留分1/4=1,375万円
  • 遺留分侵害額=遺留分割合1,375万円

特別受益を受けていない次男が遺留分侵害額請求者となる場合は、長男が受けた特別受益が相続開始前の10年よりも前か後によって、みなし相続財産額が変わるというだけで、その後の控除はありません。
ですから、長男の特別受益が相続開始前の10年以内に贈与されていた方が、みなし相続財産額が多くなり、遺留分侵害額も多くなるということになります。

以上の通り特別受益がある場合、2019年の相続法改正によって遺留分侵害額の算定は少し複雑になりました。
まとめると、特別受益について次の2点に注意が必要ということになります。

・みなし相続財産額の計算をするとき、特別受益による贈与が相続開始前の10年より前の場合は加算せず、10年の間にあった場合は加算します。
・この特別受益を受けたのが遺留分侵害額請求者である場合、遺留分侵害額の計算では、10年より前や後といった時間に関係なく、贈与された特別受益額を控除しなければなりません。

(3)「法定相続人以外の受遺者に全ての財産を相続させる」場合

同じ例で、法定相続人である長男、次男以外の受遺者に全ての財産を相続させるという内容の遺言書があった場合で、遺留分侵害額を計算してみましょう。
法定相続人である長男、次男どちらも遺留分がありますから、それぞれに遺留分侵害額が発生します。

長男の特別受益に当たる贈与が相続開始前の10年間の内に贈与されたものである場合、長男と次男の遺留分侵害額はそれぞれ以下の通りです。

  • みなし相続財産額=遺産額5,500万円+特別受益1,000万円=6,500万円

長男の遺留分侵害額

  • 遺留分割合=みなし相続財産額6,500万円×遺留分1/4=1,625万円
  • 遺留分侵害額=遺留分割合1,625万円-長男自身が受けた特別受益1,000万円=625万円

次男の遺留分侵害額

  • 遺留分割合=みなし相続財産額6,500万円×遺留分1/4=1,625万円
  • 遺留分侵害額=遺留分割合1,625万円

長男と次男の遺留分侵害額の合計は、2,250万円となりますので、法定相続人ではない受遺者は、最大2,250万円までの遺留分侵害額請求を受ける可能性があるということになります。

この金額となるのは、長男の特別受益1,000万円分が遺留分侵害額から控除されているためです。
計算上は、みなし相続財産額の6,500万円の1/2である3,250万円が遺留分侵害額となります。

次回は遺留分の放棄について解説していきます。