遺留分の放棄について

今日は遺留分の放棄についての記事になります。
2019年7月の民法改正のことにも触れたいと思いますのでぜひ参考にしてください。

遺留分は放棄も可能

遺留分侵害額請求の制度は、残された相続人の生活の保障といった救済を目的としています。
法律上保障された最低限の相続取り分を請求できる権利ですから、行使するかしないかは遺留分権利者である相続人の自由です。

ですから、遺留分権利者は相続開始後であれば、自由に遺留分侵害額請求権を放棄することができます。
また、相続の開始があったことを知ってから1年以内に行使しない場合、時効により遺留分侵害額請求権は消滅しますので、何もしないまま放置しておけば請求権を放棄したということになります。

相続開始前の放棄は裁判所の許可が必要

相続が開始する前、つまり被相続人がまだ死亡していない場合、遺留分侵害額請求権を放棄するためには家庭裁判所の許可が必要です。
なぜ家庭裁判所の許可が必要かというと、被相続人や他の相続人が自己の利益のために遺留分権利者となる相続人に対して放棄を強要したり、本人の意思に反して放棄させたりすることを防ぐためです。

遺留分侵害額請求制度の目的は、あくまでも相続人の保護ですから、家庭裁判所は簡単に放棄を許可するようなことはなく、以下のような判断基準を規定しています。

  1. 放棄が遺留分権利者となる相続人の自由意思に基づいたものであるか
  2. 放棄する理由に合理性があるか
  3. 放棄の代償についての支払いがあるか

遺留分侵害額請求権は、非常に強い権利ですから、これらの基準に従って厳しく判断されることになります。
なお、遺留分侵害額請求権の放棄が家庭裁判所に許可されたとしても、相続放棄とみなされるわけではありませんので、混同しないようにご注意ください。
相続放棄したい場合は、相続開始後3ヵ月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の手続きを行わなければなりません。

請求権を放棄しても相続可能

遺留分侵害額請求権の放棄は、あくまでも請求の放棄であって相続放棄ではありません。
ですから、法定相続分通りの相続がなされた場合は、当然に相続可能ですし、法定相続分に満たない額であっても相続人が納得して相続するのであれば、そのまま相続して問題ありません。

遺留分制度の改正について

遺留分侵害額請求権は、相続開始前に放棄するには家庭裁判所による許可が必要ですが、これは遺留分権利者を保護するためです。
家庭裁判所から許可を得たり、相続開始後に遺留分権利者に放棄してもらったりするという方法もありますが、受遺者等が遺留分の請求を恐れて、被相続人の遺言の内容を伝えないということもあります。

遺留分制度は、2019年7月の民法改正によって、「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」にかわりました。
これにより、遺留分の請求が金銭請求に一本化されましたので、実務上でも大きな違いが生まれました。

改正前は、遺留分減殺請求をされると自宅等の不動産が共有になってしまう可能性があり、これを恐れた受遺者が、遺言の内容や相続開始を遺留分権利者に伝えずに放置してしまうケースがありました。
遺留分権利者との関わりを避けるために、受遺者が何の連絡もしないまま放置してしまうのです。

ですが、遺留分権利者は、遺言書や遺産分割についての話がこないと不安になります。
そうした遺留分権利者は、弁護士等の専門家に相談することになり、その後遺言の内容も知ることになります。
遺言の内容を知って怒りを覚えた遺留分権利者は、遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害額請求)を行い泥沼化していくことになります。

改正後は、遺留分の請求は金額請求に一本化されたため、分割の難しい自宅などの不動産共有を避けることが可能になりました。
遺留分は、遺留権利者に法律上保障されたものですから、放置するのではなく、早い段階で遺留分権利者と遺言の内容や遺留分について話し合いをすることで、余計な争いを少しでも避けることができるのではないでしょうか。