遺産分割協議書と実印、印鑑証明書の話

実印とはそもそも住所地の市区町村で登録した印鑑のことをいいます。

そして、印鑑を実印として登録することでその印鑑が実印であるということを証明する印鑑証明書を交付してもらえます。

そもそも遺産分割協議書にしても通常の契約書にしても実印で押捺しなければ無効であるということはありません。そして、義務であるとは言えないのです。

 

つまり、契約書にしても遺産分割協議書にしてもそれが実印で押捺しようが認印で押捺しようが効力上問題はないのです。

 

しかし、大切な書面は実印を押すことを求められてさらにたとえば発効後3か月以内の印鑑証明書まで求められることがあります。

 

実際に遺産分割協議書にも実印押捺と印鑑証明書を求められることがありますし、筆者も依頼主に求めることが多々あります。

 

上記のことと矛盾しているようですが、これは書面の効力の問題裁判になった時の証明力の問題手続き上の話という少し複雑な話になります。

 

効力の話

遺産分割協議書や契約書について極端な話、法は書面を求めていないことが実は多々あります。

売買契約はつまり、売り買いの話ですが、「売りますよ」「買いますよ」の意思表示だけで実は成立します。遺産分割協議についても同じです。

 

ただ、書面を作成しなければ意思表示の合致を証明することはできなくなりますので、後のトラブルを防止するために書面を作成するわけです。

 

また、遺産分割協議書にしても売買契約書にしても書面がなければ第三者は本当に遺産分割協議や売買契約が成立しているか判断できません。

 

ですので、そのために書面を作成するのです。

 

 

証明力の話

では、契約書を作成するのは後でトラブルにならないためや、契約内容や遺産分割協議の内容を証明するためと上記で説明しましたが、実際にトラブルになったとしましょう。

 

そもそも、書面がなければ「言った」「言わない」ということで水掛け論になりトラブルになってしまいます。最終裁判までいった際に決着をつけるべく様々な証拠を裁判所に提出するわけですが、書面が提出されればそれだけで大きな効力が発生します。

 

書面が提出され、それに署名さらに捺印までされていれば、それが大きな証拠になるからです。

書面があればその書面が有効に成立したものであると裁判所は考えるというルールがあります。

 

そして、認印ではなく実印が押されていれば、「勝手に誰かが署名捺印したということもないだろう・・・・。」

 

さらに、印鑑証明書まで契約書と一緒にあれば「本人が押したことに間違いないだろう・・・・。」

 

このように、よりその文書の成立が確かだということの証明力を強めるために実印や印鑑証明書の添付までが求められるのです。

 

手続き上の話

上記の通りそもそも遺産分割協議書に実印はそもそも押捺する必要はないという結論になってしまうのですが、実はそうではないのです。

 

相続で遺産分割協議をもとに不動産の登記名義をかえるときには印鑑証明書の添付が手続き法上求められています。

 

登記はただの手続きであり法務局の登記官はその遺産分割協議書が正しく作成されたものであるのかその書面だけでは判断することができません。

 

そこで、実際の権利関係と登記記録を正しく反映するという目的のために、「この遺産分割協議書は正しくつくられていますよ」ということを登記官が判断できるように手続き法として遺産分割協議書に実印の押捺と印鑑証明書の提出を求めることになりました。

 

ただ、この遺産分割協議書と一緒に提出する印鑑証明書には、実は期限がないのです。

 

登記手続き上、3か月以内の印鑑証明書を求められていることもあります。

例えば不動産売買の売主や、住宅ローンをかりて不動産を担保につける場合などの不動産の所有者などです。

 

また、銀行などの相続手続きについても書面に実印の押捺と印鑑証明書を求められます。これは銀行実務上の話となりますが、効力としてはおなじく、その書面が正しく成立しているということの確認をとるためであるといえます。

 

まとめ

今回は遺産分割協議に押捺する印鑑の種類の話から契約の効力という少し専門的な話になりました。

 

すべては無用なトラブルを回避するというために今までの実務は積み重ねてきましたので、正しい知識で正しい相続手続きを行っていただきたく思います。